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その日は朝から良い天気で、強い風もなかった。
こういう日は描きやすい。
雨に降られてはさすがにこの丘で絵を描くことなどできぬし、風が強すぎてもキャンバスが安定しない。キャンバスがちょうど凧か、船の帆のように風を受けてしまうからだ。
仁史は、左手にパレット、右手に絵筆を持って、空を見上げた。
――青い。
そう言ってしまえば、そう言える空だった。
しかし仁史は、その日の青に違和感を覚えた。
何、とはっきり口にできるものでもない。だが確かに違う。
強いて言うならば、空の機嫌が良さそうとでも言うのか、空が浮ついているとでも言うのか…。
少し戸惑いながら、仁史はキャンバスに絵筆を走らせた。
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