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仁史は、 「気をつけて」 と、ソラをいつも通りに見送った。 ソラが心配そうに何度も振り返るので、仁史はそのたびに手を振って、柔らかに笑ってみせた。 ソラの姿が見えなくなると、仁史は中へ入ってドアを閉めた。 そして、迷いのない足で、一番大きな白いキャンバスに向かった。 いつも丘でやるように、イーゼルを組み立てた。 違うのは、柔らかな土の上でなく、固い床の上に組み立てたということだけだ。 パレットと筆を手にして、口を引き締めた。 瞳には、強い意思の光が宿っていた。 明日の朝日が登るまでに。 仁史は筆を動かし始めた。 ――これが最後の恋文だ。 そしてそれは、今までで一番、想いを込めた恋文になると思った。
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