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しとしとと、雨が降っていた。
そのせいで、夜明けは少し遅くなったように感じた。
ギイ、と音をさせて、ドアがゆっくり開いた。
ノックはなかった。
「おはよう」
行儀悪く、テーブルに腰かけた仁史が声をかけた。
髪をしっとりと濡らしたソラが、重い足取りで入って来た。
「……こんなつもりじゃなかったの」
ソラがうつ向いたまま呟いた。仁史の目を見ようとはしなかった。
ソラは床に泣き崩れた。
「……私が……」
と、泣きながら何度も繰り返した。
「どうして泣いているの?」
仁史は、穏やかな笑みを湛えて尋ねた。
ソラは、涙に濡れた顔をあげて、仁史を見た。
「……私が……」
と、またソラが言った。
「……私のせいで……」
仁史は、穏やかな顔のまま、優しくソラを見つめた。
「……私が…病院へ…行ってもいいって…言えばよかったの……」
ソラが苦しげに声を絞り出した。
そして、床に横たわっているものに、そっと触れた。
「私のせいであなたは死んだんだわ」
ソラの手が触れているものは、仁史の亡骸だった。
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