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「生き物は死なないと言ったのは君じゃないか」
仁史がおかしげに言った。
「僕は死んでいない。ここにいる」
身体を失った仁史が言った。
「ここで、君を待ってたよ」
そして、しあわせそうに微笑んだ。
「約束だっただろう?」
ソラは、言葉を失っていた。
「見て」
仁史が指をさした。
その先には、イーゼルに支えられたキャンバスがあった。
「タイトルは『そらの肖像』だ」
そこには、ソラが描かれていた。
ソラは絵を見て、顔を覆った。
弱った身体で夜通し絵筆を走らせ、仁史は倒れたのだ。
しかしその絵からは、仁史の想いが溢れていた。
――好きだ。
――好きだ。
――君が好きだ。
――僕は、君が好きだ。
仁史の身体には、どれほどの苦痛があったのだろうと思った。ソラには想像もつかなかった。
仁史の身体は、パレットの上に倒れ込んで、顔やシャツに、絵の具がついてしまっていた。
それで、仁史はパレットさえ手に持っていられない状態になったのだとわかった。
しかし右手では、握り締めるように絵筆を離さずにいた。
それがまた、仁史の想いの強さを物語っていた。
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