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雨はすっかり上がり、日の光が木の葉の雫に反射して、キラキラと輝いていた。
開け放したままのドアから、爽やかな空の青が見えた。
仁史がそれを眺めていると、入り口の階段を上ってくる人物が見えた。
レインコートを来て、たたんだ傘を持っていた。傘には、雫がついていた。
仁史は、その人物を見て、彼とはもう本当に住む場所が違うのだと感じた。
まるで全く違う生き物のような気がした。
その人物は、雅史だった。
雅史は、仁史の部屋のドアが開いていることに気づき、不信げに中へ足を入れた。
そして息を飲み、一瞬静止した。
しかしすぐに弾かれたように、床に横たわる仁史の身体へ駆け寄った。
投げ出された傘が、雫を散らせながら床に落ちた。
「仁史……っ!」
雅史は仁史の身体を仰向けにし、無駄のない動きで脈をとった。
しかしほんの数秒で、雅史の指が仁史の身体から力なく離された。
脈をとることはできなかった。脈がなかった。
それどころか、仁史の身体はすでに、体温すら持っていなかった。
雅史は絵の具のついた仁史の顔を、茫然と眺めた。
血の気がない、弟の顔を。
雅史は仁史の右手が絵筆を握っていることに気づき、そしてようやく、イーゼルの存在にも気づいた。
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