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雅史がイーゼルに顔を向けると、そこには絵が置かれていた。 空の絵だった。 一面、空だった。 仁史は、心配げに雅史を見つめるソラの肩を抱いて、促した。 「行こう」 ソラと仁史は、雅史を中へ残して、部屋のドアへ向かった。 床の軋む音は、全くしなかった。 階段を下りて、仁史はソラの髪にそっと口をつけた。 青い空を見上げた。 空との距離は、なくなっていた。 ふわり、とした感覚がして、仁史は自分が空に溶けるのを感じた。 初めての感覚だったが、仁史には恐怖も不安もなく、苦痛もなかった。 仁史は、この上ないしあわせの中にいた。 ソラが、空が、仁史を抱いた。 仁史も、そらを抱いた。 そらの何もかもを、感じることができた。 空に恋をした青年は、空に迎えられ、空に昇った。 それが、彼の恋を叶える、唯一の方法だった。
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