344人が本棚に入れています
本棚に追加
雅史がイーゼルに顔を向けると、そこには絵が置かれていた。
空の絵だった。
一面、空だった。
仁史は、心配げに雅史を見つめるソラの肩を抱いて、促した。
「行こう」
ソラと仁史は、雅史を中へ残して、部屋のドアへ向かった。
床の軋む音は、全くしなかった。
階段を下りて、仁史はソラの髪にそっと口をつけた。
青い空を見上げた。
空との距離は、なくなっていた。
ふわり、とした感覚がして、仁史は自分が空に溶けるのを感じた。
初めての感覚だったが、仁史には恐怖も不安もなく、苦痛もなかった。
仁史は、この上ないしあわせの中にいた。
ソラが、空が、仁史を抱いた。
仁史も、そらを抱いた。
そらの何もかもを、感じることができた。
空に恋をした青年は、空に迎えられ、空に昇った。
それが、彼の恋を叶える、唯一の方法だった。
最初のコメントを投稿しよう!