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「いつもここで描いてるのね」
突然仁史の背後から女の声がした。
驚いて仁史が振り返ると、若い女が笑みを浮かべて立っていた。
二十歳前後といったところであろうか、色素の薄い髪を顎の辺りまで伸ばしている。
化粧をした様子も、特別に着飾った様子もない。
しかしごく自然な品と、美しさのある女だった。
仁史は女の微笑みを食い入るように見つめ、はっと我に返り、慌てて目をそらした。
初めは二十歳前後だと思ったが、よく見ると表情が少し幼く、少女のようにも見えた。かと思うと自分よりも随分大人びていたような気もして、仁史はまたチラリと女の顔に目をやった。
女は変わらず微笑んでいた。
「……誰?」
仁史は女に尋ねた。
この丘は、街から大分離れた場所にあり、人が来ることなどほとんどない。少なくとも、仁史がここへ通うようになってから、仁史以外の誰かを見かけたことはない。
ましてや若い女など。
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