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仁史はソラを誘って、自宅へと戻った。
ソラは、断ることなど有り得ないという風に、二つ返事で仁史の誘いを受けた。
仁史も、ソラに断られるかもしれない、という不安は全くなかった。
何の根拠もないが、そう感じた。
自宅に着くと、5段ほどの木製の階段を上り、ドアを開けた。
鍵は一応ついているが、使っていない。
仁史の部屋には盗られるものなど何もなかったからだ。
仁史の住居は、家というよりは山小屋、とでも言った方が適切な感じがした。
部屋は一つだけ、ベッドと簡易キッチン、その他生活に必要な最低限の物。
この小屋は、元々は猟師の休憩所のような役割をしていたらしいが、土地に人の手が入るようになって動物達が減少したため、使われなくなったものだ。
それを仁史の父が、別荘などと言って買い取り、手直しをして、今の状態になっている。
別荘にするには、お世辞にも良い建物とは言えない気がした。
何しろ簡素な部屋なのである。
浴室、バルコニーなど、増設された部分もあったが、だからといって急にお洒落で快適な別荘になど生まれ変わるはずもなかった。
アウトドアや登山が趣味という人間なら、まだこの建物に魅力を感じたかもしれない。しかし仁史の父は、そういう種類の人間ではない。
要するに、気まぐれに手を出してみたけれども、思ったほど使い道がなかったということである。
そしてこの別荘は、誰にも使われなくなった。
そこへ仁史が住み着いたというわけである。
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