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ソラは部屋へ入るなり、
「わあっ」
と声をあげた。
部屋は、片付いていると呼べる状態ではない。
描きかけの絵やら、使いかけの絵の具やら、そういうような物が乱雑に置いてあった。
けれども仁史は、それを恥ずかしいとは思わなかった。
何故だか、ソラにはそういう部分を見せてもいいような気がした。
むしろ、ソラは自分のそういった性質をわかっているのではないかとすら感じていた。
だから仁史は部屋の有り様について、特に何も言わなかった。
ソラも案の定、眉をひそめるようなことはなかった。
ソラは、場所の許す限り、所狭しと置いてある絵を一つ一つ眺めては、微笑んだり目を丸くしたりしていた。
仁史がコーヒーを入れるための湯を沸かしていると、
「これ、全部空ね!」
と、絵から顔を上げたソラが話しかけてきた。
仁史は肯定した。
ソラはニコニコとして、機嫌が良さそうに見えた。
仁史の描く絵は、全て空だった。晴れの日も、曇りも、雨の空も。様々な空の表情と、仁史の想いが描かれていた。
仁史の絵は、言わば空への恋文だった。
曇りがちの空には、元気を出してと気持ちを込めた。
雨の日も、空を慰めるつもりで描いた。
叶わぬ恋文。届かぬ恋文。
それでも良かった。
――僕は空に恋をしている。
他人が聞けば一笑にふされる想い。
けれども仁史にとっては、それが真実だった。
仁史は空に焦がれて、あの丘へ通うのだ。
少しでも空に近いあの場所へ。
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