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「天空宙神拳ってなんぞ?」
この老人の言っていることは、流星には難しすぎて分からない。
「あー悪いんだがワタシの水筒どこかな?」
流星の言っていることは聞いていないようで、老人は水筒を探している。
だが、おかしい。老人の目の前に水筒はあるのだ。なぜ気づかないのだろうか……。
「あ、ここにあるよ?」
とりあえず話を合わせようと思い、水筒を掴んで差し出した。
「おう。すまんね」
老人は手探りのような動作で水筒のふたを開け、水を飲む。
流星は悟った。このじいさんは目が見えていない、と。
だが、そうなるとおかしい。さっきこのじいさんは、彼をあんちゃんと呼んだのだ。目が見えなければ、なぜ自分が男だと分かったのだろうか……。
「そんなに知りたいかい?天空宙神拳を」
自分が考え事をしているというのに、勝手に話を進められた。
「森羅聖拳は、その昔、大地の力を借りてできたとされる拳法さね。大地への感謝の気持ちと、敵に対する怒りや哀しみを指先に込め、その気を敵の体内に流し込み破壊する。世界最強の拳法の一つさ」
自分はそんな凄いものを、使っていたのか……。
「あんちゃん。使ってるのに知らなかったのかい?」確かに、そう言われると困る。知らないのに使えたのも不思議だ。
「実は……、森が教えてくれたんだ」
そう。これは森がくれた力だ。理由は分からない。
「へぇ、森がねぇ。まぁ分かった」
変なところで話を切られても困る。
「なぁじいさん。あんたもしかして……目」
「ちゃんと見えているよ。心の目での」
古の聖人みたいなことを言う人だった。
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