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プロローグ
人生を自転車で走って、盛大にそのレールから転げ落ちた奴の末路は、誰もが知る負け組へと化していくだけだった。
「やった……やった…」
足元さえ見えない暗い裏路地を慣れた足捌きで走る浮浪人が一人。
高級そうな革の長財布と札束数十枚ほどを手に握り絞め、まるで世界一の宝物のようにそれを天高く仰いだ。
「金だ……お金だ!!」
痰の詰まった低い声で、痩せ細った浮浪人――衰弱しきった優男は満面の笑顔を見せた。
純真無垢で邪心のない、赤子のように清んだ明るい目を輝かせ、世界の全てがそれだけであるような、そんな薄汚れた瞳で手に持つ札束を見取れていた。
彼は人生で初めて努力という“悪事”を働いた。
そのやり口は至ってシンプルで簡単な事だった。酔い潰れた人に通りすがりで当たって、その反動でポケットに手を突っ込んで財布を抜き取るだけだ。なんの造作もなく一瞬で出来ることだ。
「これでご飯が食べれる……これで美味しい物が食べられる」
札束を震える手で数えながら、彼は電柱の側に倒れ込むかのように寝転がり、疲れきった体を一時的に休ませた。
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