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そいつは携帯を片手に持ちながらずかずかと自分の方へ向かって来ると、空いたもう片方の手で強引に胸倉を掴んできた。
「ひぃっ……」
声にならない悲鳴が出て、じたばたともがいてると、そいつは耳元で小さく囁いた。
「大人しくしなさい」
その優しいようでどこか恐怖の込められた声には、従わなければ何かをされるという殺気で満ちあふれ、その殺気に蹴落とされた青年は、そいつの命令に従って肩の力を抜いた。
落ち着き静まった闇夜のなか、そいつの持つ携帯から「もしもし~?」とハイテンポな声が聞こえてきて、そいつは携帯を耳に当てて言った。
「この大馬鹿野郎!! 私が近くに居なかったらどうするつもりだったの?!」
暗闇の中を照らす携帯の明かりが、こんな状況でも冷静に喋る、そいつの顔立ちを照らし出していた。
絹のように透き通った黒色のストレートヘアー。それでいて体格は青年より一回りも二回りも小柄で、その小さな体を包み隠す、白いフリルをたっぷり使った黒いワンピースに、黒いカットソー、そして黒いリボンが特徴的な、ボディラインにぴったりの黒いコルセット。
上から下まで黒色に染めてゴスロリ風に着飾った、どことなく西洋風の可愛らしさが溢れ出る、気品の良さそうな幼げな少女だった。
だがそんな可愛らしさを凍てつかせるような、時折蛇のように睨み付けてくる黒い眼が、彼女の恐ろしさを具現化でもしているかのようで、一瞬たりとも気を許す事が出来なかった。
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