プロローグ

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 だがそんな無駄な欲求を押し殺して、俺はスリよりも簡単な“お金の出所”を思い付いたのだった。 「……もしも仮にだ、お前を人質に取ったらどのくらいのお金が貰える?」 「あらあら、スリに飽き足らず身代金請求ですか。とんだ極悪非道人と、私は巡り会ってしまったわけですね」 「状況が分かっていないのか?お前を今ここで殺す事だって出来るんだぞ」  本当は力には自信があったのか、少女は言動とは裏腹に、身動きの取れない状態を力尽くで打開しようとしていたのだ。ただそれ以上の力で俺が押さえ付けていたので、微動だにもしなかったのはそのせいだ。  別に俺は殺人なんて犯す気なんて微塵も思ってないが、安い挑発に乗ってくれたのか、少女は唇を噛み締めて悔しさ混じりに答えた。 「……その気になれば数億円ぐらい軽く取れるでしょうね」 「数億円?」 「世間一般では名は知れてませんが、私は裏では有名な谷河財閥の娘ですよ?」 「へぇ……その谷河さんのお宅のお嬢様が、こんな夜遅くまで徘徊を?」 「貴方がその財布さえ盗まなければ、こんな所に来る必要は無かったの。その財布に入ってる指輪は大切な物だったのよ。無我夢中で人手すら呼ぶ暇がなかった。ただそれだけよ」  彼女が言う指輪を確認しようとしたが、この拘束を解いたら何をしでかすか分からなかったので、話しを聴き入る事だけに専念した。
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