人体発火

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197X年…奈良県にある小さな集落で一つの事件が起こった。 この村には一ヶ月ほど前から、国の要請を請けて地質学者や考古学者など多数の要人が集まり、ある古墳の発掘調査をしていたのだが……。 「どうだね?」 声をかけられた男は、モニター画面から目を反らさずにこう答えた。 「大発見です、教授!色がそのまま残って…!こんなの初めてです!」 満足そうに、教授も画面に目を落とした。 映されていたのは、後に「飛鳥美人」と称されるほど見事な女人画であった。 教授は自らファイバースコープを操作し、更に周囲を調べはじめた。 「見たまえ、松村君…二十八宿だ…凄いぞ、これは…」 石窟と思われる天井には、これも見事な星座が描かれていたのであった。 モニターの周囲には、興奮で顔を紅潮させた人々が集まってきていた。 「き、教授!志摩教授!いつから!?本格的な発掘は?!」 教授は、皆を手で制しながら言った。 「待って下さい…慎重にやらなければなりません。なにしろ古い物ですから…」 …そんな喧騒から少し離れた所で、新(あらた)は注意深くその様子を見ていた。 「なんか見つかったみたいだな…」 新は、隣にいる友人の浩平に声をかけた。 「あぁ…見たいなぁ!くそっ!」 新も浩平も、この発掘調査に携わる学生グループのメンバーだったが、残念ながら雑用係…張られたロープの中には入れないでいたのだ。 「…ん?」 新は、ファイバースコープの先端が入り込んでいる古墳に目を移した。 円墳の形状で、その頂上に松の木があることから、昔から「高松塚」と呼ばれていた場所である。今その頂上から、新の視界を何かが横切った気がしたのだ。 「…?何だろう…?」 新の様子を見ていた浩平が怪訝そうに聞いた。 「どうした?何かあったか?」 新は、高松塚の上方を指指して「今、何か飛ばなかったか?」と、浩平に聞き返した。 「いや、気づかなかったけど…鳥じゃないのか?」 「鳥…?いや、違う。何か…こう…」 「新!教授が呼んでる!」 見ると、志摩教授がこちらに向かって手招きをしているではないか。 「新、行こう!見れるぞ!」 言うなり浩平が走りだし、新もその後に続いた。視界を横切った影の事など、モニター画面に比べれば小さな事にしか思えなかった。
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