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逃げるように家に駆け込んだ。
ただいまもろくに云わずに一目散に部屋に飛び込んで、荷物を床に放り投げてベッドに潜り込んだ。
堪えていた涙が溢れ出て枕に色濃く残っていく。
時計の針が刻む時間を数えていたら急に部屋のドアが開け放たれた。
「たっだいまぁーっ!」
「……か、母さん?!」
幸い、涙は乾いていた。
それほどにも長い間ベッドに埋もれていたんだと考えると少し驚いた。
ドアの方に視線を遣れば開け放たれた場所に仁王立ちする我が母の姿があった。
小さな身の丈にふわふわしたロングの黒髪。
大和撫子だと自称するその容姿は息子の目からしてもかなりのものだと思われる。
詳しい年齢はわからないが自称二十代。
まぁ我が年齢から考えると三十路はとうの昔に通りすぎているだろうと思われる。
そんな母、南 桜は傷心旅行と云う名目で世界一周の旅の真っ最中だと伺っていたはずなのだが、その彼女がここにいるとはどういう理由だろうか、と真剣に悩んでいたら桜はいきなり飛び付いてきた。
思わず対応に遅れて一緒にベッドに崩れてしまった。
息子溺愛精神は相変わらずなようだ。
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