5人が本棚に入れています
本棚に追加
降りしきる雪の中、僕は歩いていた。
理由も、行き先もない。
ただ、歩いていた。
僕は今年大学を卒業して、四月から営業の仕事に就いた。
そして、しばらく付き合っていた彼女と結婚をした。まあ、人並みに幸せな生活だったと思う。
だが、ほんの一週間前の出来事だった。
元々仕事での成績はあまり良くは無く、上司に怒られることも多々あった。
それでも、なんとか大丈夫だろう、なんて甘い考えを持っていた。
その結果、一週間前に担当の大口の契約を切られてしまい、上司からクビを言い渡された。
妻も前から浮気していたらしく、僕が会社をクビになったことを知ると、これを期にとばかりに出て行ってしまった。
ふと後ろを振り返る。
僕が歩き、確かに付いた足跡。
僕が歩んだ軌跡。
雪が、それを少しずつ曖昧にしていく。
いずれ全て埋め尽くされ、消えてしまうのだろう。
まるで、僕という人間など、最初からいなかったかのように。
最初のコメントを投稿しよう!