ある冬の円舞曲

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 「ちょっと面貸せよ。」  男に腕を掴まれ、引っ張られる。 まだ近くに人もいるし、助けを求めることもできたはずだ。 だが、既に抵抗する気力がなかったのか、それとも、もうどうにでもなれとでも思っていたのか、何故か全く抵抗する気にならなかった。 人気の無い路地に連れて行かれ、ああ、ようやく人のいないところに来られたな、なんて考えていると、腹部に一撃。 「がはっ。」 込み上げる嘔吐感。 連中はそんなことおかまい無しに、よろけた僕の脇腹に蹴りを入れる。 何発殴られ、蹴られただろうか。  「あーすっきりした。クソ、あの女俺の誘いを断りやがって」痛みで意識が朦朧としてはっきりとは聞こえなかったが、僕とぶつかった男が、去り際にそんなことを言っているのが聞こえた。
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