ある冬の円舞曲

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結局あきらめて傷の手当てをしてもらう。 手当の最中、久しぶりね、とか、今何してるの、とか、始終話しかけるおばさんに、曖昧な返事を返し続ける僕。 そういえば、前からこんな人だったな。 背中に包帯を巻いてもらいながら、そんなことを思った。 僕と彼女が別れたことは当然知っているだろうに、それでも気にかけてくれるおばさんの優しさが今は逆に辛かった。  「はい、終わり!」おばさんはそう言って、包帯を巻いた傷口をばん、と叩く。  「あいたっ!何するんですか。」 「あはは、あんまりにも健ちゃんが無視するもんだから、ついね。おばさんも寂しいのよ、柚木は家を出てっちゃうし。」 「え、どうしたんですか?」思わず聞き返してから、しまったと思った。 「ああ、知らなかったのね。あの子結婚したのよ。」 何故か、返事に詰まった。 頭が、上手く回らなかった。 心臓が止まってしまったかと思った。 僕は決して、彼女にすがりに来たわけじゃない。 そう、思っていた。だけど、どうしてもそれを受け入れられない自分が確かにいる。 ここは、おめでとうございます、の一言くらいは言うところだろうと自分でも思う。 でも、口からは「すみません、そろそろ帰ります。」なんて言葉しか出てこなかった。
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