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おばさんに「ありがとうございました。」と頭を下げ、もう彼女のいない彼女の家を後にした。
しばらく歩いて公園を見つけ、ベンチに腰掛ける。
まだ勢いの衰えない雪が、容赦なく僕の体を打ち続ける。
今の僕に、あの家に入る資格など、おばさんの優しさを感じる資格など無かった。
あそこにはもう僕の居場所など無いのだ。
そんなことは最初から分かり切っていた。
ならば、あの時おばさんの手を振り切ってでもあの家を離れるべきだった。
でも、僕はそれが出来なかった。
結局のところ、僕はすがってしまったのだ。
そして、僕は思い出してしまった。
好きだった。
誰よりも好きだった彼女の事を。
彼女の口癖も、彼女の仕草も、彼女の笑顔も、全部。
でも、それはもう遅い。
僕は彼女を裏切り、袂を分った。そして僕は僕の道を、彼女は彼女の道をそれぞれ歩んでしまった。
それは、もう決して交わることは無いのだろう。
もう、遅すぎたのだ。
「あれ?」
いつのまにか涙が溢れていた。
何年も、本気で泣いたことなど無かった。
一度泣き始めたら、もう止まらない。
会社をクビになったこと、妻に見捨てられたこと、彼女のこと、色んなことが渦を巻いて、奔流となって溢れ出した。
泣いても、泣いても、涙は止まらなかった。
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