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「あ…………えと…………」
困った。なにか言葉を返さないと変に思われてしまう。
どうにかして口にしようとするも、やはり私の喉は言葉を発しない。
お兄様に対しても無理なのだ。初対面の男性を相手に会話など出来るはずもない。
「ね、どうかな? 返事は今すぐじゃなくてもいいんだけど」
結局、私にはこれしかないのだ。
鞄の中にしまい込んだ熊のぬいぐるみを手探りで探し、それを取り出す。
『ごめんなさい。私、付き合うとかそういうのよくわからないから』
唇を動かさずに言葉を発する私を、目の前の男の子はどう思っただろうか。
気持ち悪いと思われてしまっただろうか。
恐る恐る顔を上げると、彼の反応は予想とはまったく違ったものだった。
「すっげー! それ腹話術ってやつだろ? ナマで始めて見た!」
先ほどの告白はどこへやら、男の子の興味はすでに私自身よりも腹話術にいってしまっていたのだ。
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