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入学式の日の放課後。校庭の桜の木の下で、一組の男女が向かい合っていた。
「あの歌声、とっても素敵でした…俺、まだ入学したばかりですけど!是非、俺と知り合いに!…」
男の子は一年生。どうも、目の前の女の子に告白(にしては消極的だが)をしているようだ。
対する女の子は二年生。ムスっとした顔で男の子の告白をじっと聞いている。
しかしそこは高校生。話のパターンが似たり寄ったりになってきた。男の子の話を聞き流しながら、女の子は、こんな事になったきっかけをふと思い出す。
…………
舞扇カナメ。
彼女を一言で表すならば…「寡黙」。教室では常に読者、授業は淡々とこなす。集会が長引こうが嫌な委員会を押し付けられようが、文句も無い。
元々はそんな性格では無かったのだが、本に夢中になっているうちに人が近寄らなくなり、自然と寡黙になった…といった感じか。
そして今日も、カナメは教室の片隅にある自分の席で読書だ。
「…」
だが、何やら教室が騒がしい事に気付き、顔を上げて教室を見回す。
「だぁかぁら~。カナっちは歌うまいんだってぇ~」
「はぁ?うちの学年って言ったらやっぱりケイトだろ」
ふと聞こえて来た自分の名前。顔を向けると、親友の桜かほりがクラスメイトと話をしている。
「何で舞扇なんだよ~」
「ふっふっふ…」
不敵に笑うかほり。中学の時になし崩しに知り合いになってからと言うもの、色々遊び回っている仲である。
「カナっち、カモン!」
明るい彼女との会話は、カナメにとって幸せの時間の一つであるが…、
「…嫌だ」
さすがに今は乗り気になれない。あんなノリについて行けるのは、それこそ二人きりだからだ。自分の事を気味悪がっているクラスメイトの輪に入るなど、もってのほかだ。
「そう言わずに~!カナっち歌うまいんだから、歌ってよ!」
カナメの心情を分かっているはずのかほりはしかし、カナメの机にやって来ると…、
「はい、本は一旦終わり~!」
カナメが読んでいた本にしおりを挟み込み、取り上げる。そのノリは二人で遊ぶ時のノリと同じだ。だからだろう、カナメもつい乗せられて、大声で言ってしまう。
「あ、返せー!」
学校で初めて出した大きな声。
そしてその一言は、もうすぐ二年目を迎えるカナメの学校生活に、大きな変化をもたらす事になった。
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