歌姫

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「え?…今の舞扇?」 「なんか、めっちゃカワイくね?」 「アニメみたい…」  クラスメイトのざわめきと、満足そうなかほりの顔。 「はい」  かほりが、奪った本を素直に返す。 「う、うん…」  カナメは雰囲気の変化について行けない。普段は鋭敏な聞き耳も、まるでイヤイヤをするように周囲の言葉を受け付けない。…私の声がカワイい?そんなバカな。 「舞扇って、こんなカワイい声だったんだ…」 「スマソ、俺萌えて来た」 「ケイトちゃんより、凄いよねぇ~」 「はっ…」  だが、ケイトという名前を聞いた瞬間にカナメの心は冷静になる。カナメはため息をつくと、いつもの調子で…わざと低い声で言った。 「ケイトちゃんで、良いと思う…」  幹ケイト。歌が異常にうまい同級生。顔の美しさも手伝って、学年中から「歌姫」とあだ名される友人。  そんな友人と自分を比べられて、気分を悪くするカナメ。今までこんなことは無かったはずなのに、急にどうしたんだろ?ムシャクシャする。  そんなカナメの言葉に、異を唱えたのはかほり。 「えぇ!せっかく自分をアピールするチャンスなんだよぉ?いっつも読書なんて、カナっちらしく無いよぉ!」  わざと大きな声で言ったかほり。狙い通り、その言葉に反応するクラスメイト。 「らしく無い…?やっぱり昔馴染みだから、色々知ってんのかなぁ」 「聞いてみようよ~」 「あの…桜さん?それは一体どういう…」 「それはね~」  調子良く話そうとするかほりに、再びカナメが叫ぶ。 「だから止めろー!」  …シン。  後ほど男子達の間で、カナメに着て欲しいコスプレは何か、議論されたという。 「かほりの…バカー!」  顔を真っ赤にしながら教室から走り去るカナメ。クラスメイトが呆気に取られる中、かほりだけが微笑を浮かべる。 「ふふふ…みんなびっくりしてるね~」  放課後、いつもはかほりの部活を待ってから帰るカナメも、今日は一人。…多分、明日からも一人。  ひたすらごめんね~を連発するかほりも、興味を持って話しかけてくれたクラスメイトも、全員無視。傍から見ればいつもと変わらないムスっとした顔であるためか、家に帰っても誰も変化に気付かない…いや、気付いた人間もいたのだが、気を遣っていつもと同じようにふるまっていたのだ。 「みんなみんな、嫌いだぁ!」
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