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行き先は決まっていた。授業で屋上に向かっているはずのケイトの元だ。さっきのメールは、まだ開いていない。昨日のメールの確認もまだだったし、他に行く場所が浮かばないのも事実。
「ケイト!」
カナメは廊下でケイトを発見し、呼び止めた。
振り向いたケイトはカナメに気付いた瞬間…、
「ごめん、サボるね」
と横にいたクラスメイトに言い残し、早足でカナメに歩み寄る。その子は慣れているのか、特に騒ぎもせず屋上に向かう。
「探したわよ~カナメ~!」
出会い頭にケイトはカナメを抱きしめようとして…、
「な、何すんのよ!」
カナメにパンチされる。大して威力はなかったが、カワイさに撃たれたケイトは大人しく引き下がる。
「あらあらごめんね?…昨日のメール、見た?」
返事をしなかったせいで、心配をかけてしまったようだ。
「見てないわよ…何?」
カナメは、早く終わる用事ならありがたいなと思っていた。中身次第では、ケイトに八つ当たりも考えていた。だが先に用事を切り出されてしまったから、聞くしかない。ケイトは言う。
「今度の新一年生歓迎パフォーマンスのソロなんだけど…代わってくれない?」
「いやぁぁぁ!」
まただ…思わず逃げ出そうとして、近くのドアに衝突したカナメ。どうして誰もが、私なんかを推薦するのだろう?
「あの歌なら、私よりカナメの方がうまいでしょ?」
歌は絶対にケイトの方がうまい。謙遜だろうか?
「何よ~。かほりもそんな事言うし…」
友人同士だと普通に喋るカナメ。ダルいオーラ全開だ。
「だって課題曲、『光の中で』よ?」
「光の中で」…とある女性シンガーの代表曲。男女問わず人気な曲なのだが、実際に歌うにはかなりの歌唱力が必要とされる歌。カナメのお気に入りであり、気分が良いとつい口ずさんでしまうのが、カナメの癖だ。
「ほ、本当に?」
「そうなの…。多分、かほりの仕業よね」
この歌を歌える同級生は少ない。人数絞りのためにしては、少しやりすぎな気もする。
「う~ん…」
カナメは迷う…普段からムスっとした顔が、さらに不機嫌味を帯びてくる。
「じゃ、また今夜ね~」
とケイトが授業に向かった後もひたす悩んだ…歌いたい、ケイトよりうまくなんか歌えない、恥ずかしい、歌いたい…。
結局、一時間目が終わった後に先生に見つかるまでかかっても、答えは出なかった。
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