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メディアの違いでトラブルがあったりするのはいわゆる大人の事情だが、それを把握していないケイトには、ふざけているようにしか見えない。
「…カナメは部屋にいるの?」
ケイトは我慢出来ずに、靴を脱いで二階の部屋へ向かう。自分のせいで友人が苦しんでいるのだ、靴を揃える手間も惜しいこの時に、どうしてふざけてられるのか。
ケイトは階段を上り始める。
「………」
やはり靴は揃えておくべきだ、うん。
「カナメは部屋にいるのね?」
やり直す。ケイトの性格も大概だ。
ケイトが二階へ向かい、玄関に残された二人。呆気に取られた…ように振る舞っていた二人は、ケイトが見えなくなってからどちらからともなく向かい合い、ニカっと笑う。
「「大成功!」」
上に聞こえないように二人は言うと、そそくさとリビングに向かった。
カナメは歌っていた。悔しい?違う。悲しい?いや、全然違う。
経験した事のない感情に、自分の取るべき対応が分からない。
朝からずっと歌っていた。曲はやっぱり「光の中で」…これだけはいつ歌っても、自分の気を紛らわせてくれる。最初は呟くように、だが、無意識にだんだんと大きくなっていく歌声。妹が見ているのも気にならない。話しかけてきた気もするが、そんなものは知らない。
一体何時間歌っただろうか?丈夫な喉は声を枯らす事もなく、その歌声を響かせる。さすがに疲れてきて、曲を止める。…と、そのときに初めて、自分に拍手が向けられている事に気付いた。
「…ケイト?」
拍手をしていたのはケイト。そういえば勉強会の約束をしていたような…。
「ご、ごめん!」
慌てて着替えようとして、ケイトに止められる。
「舞台は…終わり?」
「え?」
カナメが間抜けな声を返すと、ケイトはため息をついた。
「今の歌…そうね、舞台に立ってるプロの歌みたいだったわ…。客とか見物人がもっといたら、きっと拍手喝采よ?」
ケイトの素直な賛辞。だが、ムシャクシャしているカナメには、ただの嫌みにしか聞こえない。
「何?勉強会やらないの?」
不機嫌さの伝わるカナメの声。ケイトは返事の代わりにと、ポケットからいつも持ち歩いているUSBメモリを取り出した。
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