8人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
青い光が私を浮かばせ
静寂が足音を切り離す
にわか雨が私の輪郭を
より鮮明にしてゆく
何百も人が眠る土を私は一人で守り続けた。
孤独の中何年も…嗚呼、そうだ…それはまるで永遠の樣な輝きさえ孕んだ絶望で在った。
私はこの侭、此の樣な場所で朽ち果ててゆくので在ろう乎…
そう思った時に赤い服を着た少女が現れた。
私は自分の醜い顔をとっさに隠した。
指の隙間から見える少女の顔は、臘人形の樣に白く月の光よりも美しかった。その闇の中でさえ輝きを放つ漆黒の髪は、彼女の美しさを此の世の者から遠ざけて居た。
「もし…此所に新しい墓はございます乎?」
「…昨日出来たのがございます」
「私は今夜そこに入りに参りました。」
「何故です乎?」
「私は全ての人間に忘れられたのです。」
「人はそんなにも簡単に人を御忘れになられるものです乎?」
「人は忘れて生きてゆくものですから…古いペンキの上からは、常に新しいペンキが塗られてゆきます。そうやって、私は消えてしまいました。」
「私も消えてしまいました…ですから、此所で墓の番をしているのです。」
「そうです乎。同じ身ですね」
少女の頬を伝う軌跡は、宝石の樣に光を集め輝いた。雨の音が彼女の声を引き立て、切り取られた耳が真摯になった。
「墓守さん、貴方は孤独です乎?」
「この広いだけの空間に押し潰されそうです。」
「そうです乎。でしたら一緒に墓に入りましょう。狭い空間に二人、きいと温かい筈。」
「それはとても良い考え。是非そう致しましょう。」
少女の紅い唇が嬉しそうに歪められた。私は少女を墓へと案内した…二人の永遠を誓う墓場…そして、二人で氷よりも冷たく柔らかい土を掘り返した。そこには少女の躯に見合う樣な小さな柩が埋って居た。
最初のコメントを投稿しよう!