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或る戦場の話。
……戦争ってのは実にタチが悪い。
俺がそう酒場で愚痴ると、そんな甘ったるい事を言っていたら、我らの宿願は達成出来ない、
と生真面目な俺の部下はいつも必ず喰いかかってくる。
俺の部下の行為は上官侮辱罪に十分該当するのだろうが、俺は特に咎めはしない。若気の至りだ。仕方の無い事なのだ。
実際、俺も若い頃はそうだった。我らの素晴らしき理念の為になら、この身を挺して戦い抜くと自分の心に誓い、あの憎き侵略軍を虐殺することに何の疑問も抱かなかった。
いや、抱けないような状況と言った方が正しいな。
航空機を使用するにはあまりにも狭く、また戦車を使用するにはあまりにも馬鹿馬鹿しいくらいに厳しい、俺達の生きるこの山岳地帯の中では、メタル・ジャケット(MJ)と呼ばれる約8m程度の人型兵器が地を這いずり回り、人を殺している。
因みにMJとは元々、弾丸を意味する言葉だったらしいが、MJを開発した連中がどういう皮肉を込めてそんな名前を付けたのかは知らないし、俺にとってもどうでもいい話だ。
少なくとも、このペダル一つ踏むだけで歩き、トリガーを引くだけで、自分から遥かに離れた敵に、戦車砲以上の威力の砲弾を何度もお見舞いする事の出来るこのMJは、俺達兵士から、「人を殺す」という感覚を奪うには十分すぎる兵器だった。そう、ゲーム感覚と呼ぶのが相応しいんだろうな。
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