世界一愛するということ

2/2
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/2ページ
その日は日曜日で、とてもいい天気でした。 ぼくは縁側に出て、 地面を歩くアリたちを眺めたり、 ひざのカサブタをむいてみたり、 空を見上げたり、退屈でした。 ぼくの後ろに掃除機の音が近付いてきました。 お母さんが台所の方から後ずさりながら、掃除をしてきたのです。 その時、 ぼくはアリの巣のそばに、 何かキラリと光るものが落ちているのを見つけました。 何だろうと思って腕を伸ばし、拾い上げてみると、 それは小さな貝殻の破片でした。 昨日お父さんが、 庭のニワトリに、 細かい貝殻の混じったエサをまいた時の残りのようでした。 退屈だったので、 ぼくはその貝殻の破片を、 縁側の板でごしごし擦って傷をつけたりしてました。 でもすぐにつまらなくなりました。 見ると、 ごしごし擦ったので、貝殻の破片はとてもとがって、 チョコンとさわると、チクッとしました。 ぼくはそれを持って部屋の中に戻り、 畳と畳の合わせ目にぐいっと押し込みました。 合わせ目から貝殻のとがった角が出ていました。 「これはあぶないなあ」 ぼくはそう思いました。 「これを踏んだら、大変だ。痛いだろうなあ」 とも思いました。 そんなことを思って、お母さんを見ると、 掃除機をかけながら後ずさりして、 ぼくの方に近付いてきました。 まさか踏まないだろうと思いました。 ぼくは少しお母さんの後姿を眺めたあと、 急につまらなくなって、縁側の方を見ました。 すると突然、お母さんが、 「あ痛ッ!」 と言って倒れてしまいました。 ぼくは驚いて振り向くと、 お母さんはぼくの押し込んだ貝殻を踏んで、 足の裏から血を流してしまいました。 ぼくは、とても大変なことをしてしまった、 と怖くなりました。 そして、 叱られる、 と思いました。 お母さんは足の裏に刺さった貝殻を、 「ううっ」 と言いながらぐいっと引き抜いて、 ぼくを見てこう言いました。 「ああ・・・・・貴方が踏まなくてよかった」 怒られませんでした。 叱られませんでした。 お母さんは最初にそう言いました。 ぼくはその場でわっと大きな声で泣きたくなりました。 でも黙っていました。 すぐにあやまることができないくらい、 「ごめんなさい」という気持ちでいっぱいでした。
/2ページ

最初のコメントを投稿しよう!