日高 沙紀

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「…」  静か過ぎる校舎、この時間だから…と言うのもあるが、それ以前に今日は休日なのだから、いつも以上に人が居ないのは当然の事だ。  俺達一部の三年生は、進路に関する懇談やオリエンテーションがあり、休日…しかも第2のゴールデンウイークとも言える、この連休の初日を学校で過ごさなければならない。 「面倒だ…」  正直、進路に興味の無い俺には面倒なだけだが、大した用事も無く、結局家で暇を弄ぶよりは、退屈凌ぎ出来る分まだマシだろう。 「みーのるくーんっ!」  突然後方から俺を呼ぶ声が…しかも、聞き覚えのある…。 (朝からツいていないな…)  思わず嘆息が漏れる…。俺の予想が正しければ、次は…。 「おっはよぉわゎゎぁっ!?」  声の主は俺の予想通り突っ込んで来た、そして俺がギリギリで避けると、更に予想通り転びそうになる。 「っと」  その寸前で制服の襟首を掴む。 「うぅ、酷いなぁキミは…ボクが飛び込んであげたんだから、そこは普通は受け止める所でしょぉ?」 「止めてやっただろう…」 「ちっがぁう! 抱き止めてって言っているんだよ!!」 「…何の冗談だ?」 「冗談なんかじゃないよっ! ボクは本気も本気さ」 「…」 「あぁっ! 待ってよ、置いてかないでよぉっ!!」  付き合い切れず歩き出した俺の後ろを、早足でついて来るこの喧しい奴は、日高 沙紀[ひだか さき]…クラスは違うが、一年時から俺に干渉してくる。一人称は何故か「ボク」だが、そんなにボーイッシュな訳では無いのもよく解らない。 「稔くん、キミは相対性理論について、どう思う? ボクはアインシュタインの――…」  急に変な話をしだす所も、理解に苦しむ…。相対性理論何かよりも、こいつの方がよっぽど謎で不思議だ。 「…じゃあな」  B組の教室前まで来た為、別れを告げる。彼女はD組だからもう少し先まで歩かなければならない。 「へっ? あ、もうこんな所っ」  まだ話していたのを遮られ、呆けた声を上げる日高。その顔は実に残念そうだ。 「よし、じゃあボクもB組に――」 「却下だ」 「じゃ…じゃあキミをD組に――」 「断る」 「はぅっ!」 「じゃあな」 「あーッ! ちょっ――」  とぉ、と続けた頃には扉は閉まっていた。奴も諦めた様で静かになり、俺の好きな静寂に戻る。会が始まるまで後一時間半…それまではゆっくりしていよう…。
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