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特に用事も無い事実は否めず、結局一人でアヤナスに行くことにした。誘いを断っておいて同じ場所に行くのは至難の業…出くわしてしまった時の空気はとても気まずいモノだ。
「…」
だが、それはそれでちょっとしたスリルがあって面白い。それに俺は絶対に見つからない自信がある。
「行くか」
誰に言うでも無く、一人で呟いて歩き始めた。歩きながら色々な所を見回す。空には青天が広がり薄白い月が見え、川は日の光を反射してキラキラと輝いている。
「本当に…平凡なもんだ」
良く言えば"平和"と言っても良いだろう。一般の人間からしたら、何の変化も無く、重大事件が起こるでも無い極々普通の日々…当たり前過ぎる日常。
「…全く…不愉快だ…」
誰か居る訳でも無いのに、誰にも聞こえない様、小さく呟く。
「…」
少し考え事をしていただけのつもりだったが、予想以上に深く考えに耽っていたのか、気付くとアヤナスの前まで辿り着いていた。
(む…しまったな…また無心のまま行動してしまった…悪い癖だな)
人通りが無く、誰にもぶつからなかったのは幸いだった。
「まぁ、次からはそうもいかないか…」
ランドマークタワー前の人だかりを傍観する。平日だと言うのにそれを感じさせない人の量。ランドマークタワーとは新綾女の象徴とも呼べる建物で、アヤナスはタワーの中枢に展開しているショッピングモールだ。
「ついでに食品でも買ってくか」
俺はとある事情で一人暮らしをしている為、自炊を余儀なくされている。面倒な時はコンビニで適当に買ってしまうが、普段は食材を自分で揃えちょっとした料理をしている…その方が安く済む。で、その食材を買うのに行くのが、新綾女の商店街とアヤナス。だからアヤナスにはよく訪れる。
「確か野菜が尽きかけていたんだったな」
昨日の段階の冷蔵庫の中を思い出す。
「それにしても…」
今日もまた人が多い。浩達に見付からない様に気を配りつつも、人の間を縫う様に店内に侵入するが…一体何故こんなに人が居るのか理解し兼ねる。
「まぁ、別に良いか」
強いて知りたいとも思わないしな。そう思い込み、あまり気にしないことにした。
「今夜は何を作ったモノかな…」
そんな独り言を漏らしつつ、俺は人混みに紛れ込んだ。
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