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「呪封…!」
赤い世界が終わる直前に何とか綴裁を仕舞う事が出来た。
「…」
少し茫然とする…どうやら本当にランドマークタワーの中だったらしく、俺の目の前には見馴れた光景が広がっている。
(一体どうなっている…)
赤い世界には居なかった"人間"が今この場には居る…いや、寧ろ本来は俺が"居なかった"のだろうが、周囲の人は俺が突然現れた事を気にも止めていない様だ。
(くそっ、訳解んねぇ…!)
自分の理解力の無さに腹が立つ…。だが、アレは…あんなモノは、人間には理解できる訳が無いのかも知れない…そう一人で赤い世界の感傷に浸って居たが、すぐ現実に引き戻された。
「おーい、稔ー!」
「…浩…?」
そうだ、此処はランドマークタワーの中…アヤナスの一角。あれから少し時間が経っているにしても、まだ浩達が居て可笑しくは無いのだ。
「なんだ、結局稔も来たのかよ~。連絡くれりゃ良かったのに」
「あぁ…いや…。夕飯の食材が無かったから調達しに来ただけだ…すぐに帰るよ」
笑いながら話し掛けて来る浩に、やり場も無く手持ち無沙汰だった買物袋を見せ、平然を装って対応する…。赤い世界に浩達は居なかった、挙動不審な言動をすれば怪しまれる。
「そうか、残念だな…」
そんな俺の考えは知らず、浩は普通に接して来る。
「済まん…じゃあ、また明日」
「おう、また明日な」
そう言って軽く挨拶を交わした後、俺は足早にアヤナスを出た。いつもの奴らの視線が嫌だったからでは無い。赤い世界の時のあの場所が怖かったからでも無い。ただとにかく、一人で落ち着きたかった…思考する時間が欲しかったからだ。
「…そう言えばメールが」
何気無く思い出して携帯を開く…それは普段やり慣れた動作…そして"コレ"も普段から気無しにしている動作…たったそれだけの動作が俺を愕然とさせる。
「進んで…無い…!」
"時刻確認"…習慣の一つ…。俺の待ち受けにはアナログ型の時計がついているが…その針が最後に見た時から変わっていなかった。つまり浩達はまだアヤナスに居たのでは無く、あれから動いていなかったと言う事になる。
「…チィッ」
思考回路がショートしそうになる…。
(駄目だ、冷静になれ)
そう自分に言い聞かせ、取り敢えず帰途に着いた…。
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