105号室

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(六)  前にも申しましたが、私には息子を責める資格等ありません。情けないのは私も同じです。  私は居間に座って、父親をひたすら待ちました。何よりも、『先ず彼と会って非を詫びなければ』頭の中はそれしかありませんでした。  そして真夜中、果たして彼はやって来ました。手に凶器らしき物は何も持っていません。 私「全ての責任は私にあります! ……許して下さい!」  私は手にしていた包丁を、自分の首に宛がいました。  しかし彼には、そんな私の姿等、まるで関心が無い様子。部屋を歩き回っただけで、そのまま家を出て行ってしまったのです。  考えてみれば、私が死んだ所であの人が許してくれる訳がありません。  私はあの人を全く恨んでおりません。もしも立場が逆だったら私も、鬼にでも化け物にでもなったに違いないのですから。  今は孫の事よりも、Mちゃんを抱き締めたい。涙は、もう涸れ果てました――。  以上が、母から聞いた覚えている限りの、内容の全てである。その後、Iさんが亡くなるのを待っていたかの様に、M子の父親の死体が山中で発見された。  彼は大木の下で腐っていた。胃や腸を調べた結果、死因は恐らく餓死だろうと診断されたらしい。  その大木には、何本もの釘が打ち込んであったと言う。――あの家族の写真だと、分からなくなる位まで。  
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