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金曜日の午後八時。土曜日休みが増えてきた昨今、今日はゆっくり飲もうという会社員や大学生達で居酒屋は混雑していた。酒が入ると知らずハイテンションになるのか、時折わぁっと喚声があがる。
俺、仲西一範は取引き先社員の根岸雄志さんと、仕事帰りに旨いビールを飲んでいるところだ。
「それにしても偶然ですよね。仲西さんが溝口駅を利用していたなんて、全然知りませんでしたよ」
「俺もですよ」
俺は根岸さんの言葉に深く頷いた。
自宅からの最寄り駅が二人共溝口駅だというのに、構内で擦れ違った記憶は全くない。
「同じ駅っていっても、やっぱり使ってる路線が違うと会わないもんですね」
「ええ。それに根岸さんは西口利用ですよね? 俺は東口ですから」
「確かにそれはありますね。きれいに逆方向だ。でも、今まで会わなかったのは不思議ですよ」
「ほんとに」
俺達は互いに笑いあった。
今から30分程前、俺は混雑する溝口駅のコンコースで根岸さんに声をかけられた。溝口駅は私鉄とJRが相互乗り入れしている、わりと大きな駅だ。駅ビルも完備されているし、隣接する商店街も賑わいがある。そのため、一日の乗降者数もとても多い。そんな中知り合いに会う確率は、そう高くないだろう。
そしてお互いに仕事も終わり帰宅するだけだったので、そのまま飲みに行こうということになった。
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