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今は昔、大陸の東半分を占めるホウ大国。その西方にそびえる大山の中腹を切り開いて作られた村、レイホウ。春を間近に控えた雪の残るこの山村に、金属を打ち鳴らす音が響き渡っていた。
一定の間隔をおいて鳴っていた金属音が止んだのは、太陽が顔を出して朝靄を消し始めた頃のこと。
音の出所である煉瓦造りの小屋の木戸が開き、中から一人の青年が姿を現す。
朝日を眩しそうに見る彼。その整った顔も、肩まで伸びた黒髪も、髪を隠す頭巾も、だぶついた作業着も、全てすすけていた。
青年の顔からは徹夜明けの疲労感が見て取れたが、その瞳は疲労を忘れているかのような昂ぶりがあった。
「ほう、こいつは今日も良い天気になりそうじゃないか」
青年に続いて小屋からひょっこり顔を出した老人が、朝日に照らされる軒並みを眺めながら満足そうに頷く。
老いを感じさせない鋭い眼光。顔に深く刻まれた皺。青年の隣に立ち、朝日に堂々と向き合っているこの老人。一目見ただけで只者ではないと思わせる雰囲気を持つ彼も、青年と同じような服装で、青年と同じようにすすけていた。
「お疲れ様でした、先生」
そう言って穏やかな微笑を向ける青年に対し、老人はまだまだ元気そうな顔でカカと笑い返す。
「徹夜仕事は老いぼれには堪えるわい。すまんが茶を淹れてくれんか、タイコウ」
首をコキコキと鳴らしながら言う老人に、青年タイコウは頷いて小屋の隣にある一軒家に向かった。
タイコウが茶器を乗せた盆を持って戻った頃には朝靄も取り払われていた。
暖かな日差しが射す中、地面にあぐらをかいて村の朝の情景を眺めていた老人。組んだ足の上には、彼の飼う鶏カンソが朝陽の中で心地良さそうに丸まっている。
「鶏は朝鳴くのが仕事だろうに……」
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