さくら

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ギィィィ…ンッ! 「…っ!はあああああっ!」 「ははっ!楽しいねえ!もっと、もっと殺りあおうぜえっ!」 舞い散る桜の花びらの中、男と女が刃を合わせる。 男の得物は二丁の板斧。 女の得物は長大な刀。 二人とも得物に振り回される事なく、自分の手の延長の様にそれを操っていた。 男の名は旋。 唐渡りの退魔師である。 粗暴な性格と反骨心が災いして、本国から半ば追放の如き扱いを受けてこの国に渡ってきた。 無論この国に知り合いがいる訳でもなく、当てもなく彷徨っていた時にひょんな事から陰陽寮でも変わり者として噂の賀茂蒼満と出会った。 その蒼満から陰陽寮の術者が手を焼いている妖怪の討伐を頼まれたのである。 「人を喰らう桜の木だって?」 「正確には人の血を吸う妖の桜といいますか…。もう犠牲者の数が三桁に達する所でしてね」 蒼満はそう言って溜め息をついた。 「その木を伐採してしまえば全てが終わるのですが…木に守護者がいましてね。私達は桜姫と呼んでいるのですが…この女が滅法強くて。陰陽術も効かず、剣の腕も立つ。かの天才晴明様が生きていれば何とかなったでしょうが、今の我々では中々に…」 「それで俺の出番てぇ訳か」 「唐の退魔術なら或いは、と思いましてね。引き受けて貰えないでしょうか?」 蒼満の問いに旋は破顔一笑して答えた。 「アンタには一宿一飯の義理がある。断れないだろ。ところで…」 「謝礼の話なら…」 「んな事ぁどうでもいい。その桜姫って女…美人か?」 腰まで届く黒く艶やかな髪。 細面の凜とした表情の美女。 その切れ長の目の奥に諦観と悲哀を秘めながら、彼女は旋と刃を合わせる。 妾はこの木に縛られている。 この木に人の血を捧げる為にどれだけ意に添わぬ殺人を繰り返してきた事か。 去りとて自決する事も手を抜く事も叶わず、妾はひたすらこの妖木の為に刃を振るう。 どうか…どうか妾をこの木から解放しておくれ。 誰でも構わない。 妾を殺めておくれ!
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