さくら

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再び術を繰り出そうとする蒼満。 しかし―― 「く…ああああっ!」 旋は自らの胸に手刀を突き入れて、心臓を取り出した。 「な…何を…?」 冷静沈着な蒼満が思わず術を止める。 だがそれが命取りになった。 「我が心の臓と魄をこの木に捧げん!我は咲耶と木を守りし千年の鬼と成らん!」 旋は木に心臓を埋め込んだ。 ドクン…ッ! 木が大きく脈打つ。 そして―― 木の根本から幾条もの根が蒼満に向かっていった。 「ぐ…はああっ!バカ…な…」 根が蒼満の身体に突き刺さり、その血を吸い取っていく。 「おのれ…旋…っ!こんな所で…私が…私…が…あ…」 蒼満は全ての血を抜き取られて死んだ。 「旋…っ!」 「咲耶…俺の魂は…千年の後に…生まれ変わる…そん時は…今度こそ愛し合おう…な?」 「待つ!妾は…千年待ち続ける!お主がどんな姿になろうと絶対見つけ出す!」 「じゃあ…またな」 旋は木の根本に身体を横たえた。 その亡骸を桜の花びらが包み込む。 妖の桜が新たな守護者になった男を弔うかの様に。 そして咲耶は千年の眠りについた。 桜も何人も寄せ付ける事無く、美しい花を咲かせ続けた。 たまに蛮勇を誇る術者の命を喰らいながら。 そして20XX年の春。 黒田風音は喧嘩で傷付いた身体を癒す為に曰く付きの桜の木の下にやってきた。 千年もの間、人の血を吸って生きてきたお化け桜。 咲き誇る花は美しいけど、側まで近寄る事を赦さない威圧感を持つ桜。 「けっ…馬鹿馬鹿しい。何がお化け桜だっての。こんなに綺麗なのにな」 そう言って根本に背中を預けて空を見上げる風音。 すると―― 「ずっと…待っていたのじゃ」 「………アンタ、誰よ?」 女はスルリと枝から下りてきて風音の前に立つ。 「思い出さぬか?千年前のお主はこの木の下で妾と殺りあい、そして愛し合ったのじゃ」 懐かしそうに風音を見つめる女。 「殺りあう?愛し合う?アンタと?まさか…」 一笑に付そうと思った。 けど胸の奥がチリチリと痛む。 心臓の辺りだ。 「約束…したじゃろ?千年の後に妾とお主は出会い、今度こそ愛し合おうって…」
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