幸福論

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「さようなら」 彼女はそう言うと、僕から逃げるように立ち去った。 「はぁ……」 俺はため息をつくと、自分の家に向かって歩き出した。 彼女とは一週間の付き合いだった。普通、一般的に考えると短いかもしれないが、俺からしたら長いほうだ。いつもはだいたい三日程で別れてしまう。 別れる理由は俺の性格のせいだ。いや、性格というより考え方の問題と言えばよいのだろうか。 いつも俺と付き合った女性は「いつまでも一緒にいようね」とか言い出すのだが、俺はそうは思わない。俺は彼女にそう言われると「いや、俺は今すぐにでもお前に殺されたい」と、言い返すのだ。そしたら「気持ち悪い」とか言われて相手が去っていく。いつもそれの繰り返し。 自分でもわかっている。この考え方がおかしいのだと。でも、それでも殺してほしい。俺を愛してくれる人に。 だってそうだろ。愛している人を殺すということは、それだけ愛した人を自分の物にしたい、誰にも渡したくないということ。 とても素晴らしいことじゃないか。そんなに想われていたら俺は幸せだ。 それに生きていれば必ず彼女との別れがくる。そしたら絶望感に襲われるだろう。そんなのは嫌だ。俺は幸せを感じたまま死にたい。幸せを感じたまま殺されたい。 他の人から見れば俺は変人に見られるかもしれない。いや、確実にそう思うだろう。それでも俺はこの考え方を変えることはないだろう。 なぜならこの考え方こそが俺の幸福論であり、俺がこの絶望した世界を生きている理由なのだから。
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