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「キミが青谷紅葉かい?」
「そうですけど…」
学校の下校中に突如私の前を遮ったのがこの赤谷忍だった。
今思えば、あの時無理にでもコイツを無視して帰っていれば良かったと後悔するが、それはもう後の祭だ。
普通は見ず知らずの男に前を遮られれば、少しは警戒するのが常識だ。
しかし、この男は最初から警戒心どころか、どこか禍々しい雰囲気を放ち、私の警戒心をより一層強くした。
それが仇となったのか、その禍々しさは私の警戒心を容易く砕き、この男はその禍々しい雰囲気でさえも自分の魅力として漂わせた。
それは魅了。私は魅せられたのだ。
何も知らないで。この男がどんな人間かも知らないで。
魅了されたのだ、それぐらいこの男の禍々しいさは魅力的だったのだ。
「見惚れたかい?」
「は?」
見惚れていたのは本当だ。
綺麗な赤髪、パリッとしたスーツにスラリと伸びた身長。身長は180を軽く超えている。
さらには長い脚に均等の取れた体つき。
この男の存在自体がまるで芸術品のように完璧で、私がその芸術品に見惚れていたのは確かだ。
しかし、それを芸術品である本人から指摘されると別である。
「……別に見惚れてませんけど…」
「そうなのかい?遠慮しなくていいのに♥」
コイツ………。
初対面の人間に会ってたった数分でこれほどまで殺意が湧くだろうか。
否、湧くはずがない。この男が独特なのだ。
確かに男は誰もが見惚れる外見をしている。それは誰もが認めるだろう。
だが、この男の場合それを自分も認め、自覚している。
所謂、ナルシストというやつだ。
「…で。何の用ですか?」
この男に関わってはいけない。何かと面倒くさい。
そう私の第六感が告げ、私はいち早くこの場から立ち去るために話を進めた。
「貴方誰ですか?私、貴方みたいな人、知らないんですけど」
「決めた」
「はい?」
「キミ、ボクの彼女になってよ♥」
「は?」
初対面の人間に上から目線の愛の告白。
誰もが認めるであろう容姿端麗。
イケメン好きなら尚この告白に即座にOKするだろうけど、私はそんなの関係ねえ。
イケメンは嫌いじゃない。でもこの男は初対面だけど、
嫌いだ。
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