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「お帰りなさい」
画家が家に戻ると、椿が満面の笑みで彼を出迎えた。おかしいと思うが、理由が判然としない。
「見つかりました?」
「あぁ、見つかったよ。もう少し雪解けが進めば描けそうだ」
「ふ~ん、そうなんですか、良かったわ」
「どうしたんだ?さっきから嬉しそうにニヤついて」
「何でだと思います?当てて御覧なさい」
「全くわからない、ヒントをくれないか?」
「今日は何の日でしょう」
それを聞いて思わず苦笑する画家。
彼女は期待を裏切らない。
「バレンタインだろ」
「あら!知ってたの・・・詰まらないわ。けど、聞いて頂戴、貴方。私、チョコを作ったの」
「おいおい、僕達、もう三十路だぜ」
「嬉しくないんですか?」
「いや、嬉しいけどさぁ」
「じゃあ、ちょっとは嬉しそうにしてくださいよ、せっかく作ったのに・・・なんか、興ざめだわ」
「あぁ、御免、嬉しい!嬉しいよ!」
「そう?じゃあ、持ってきてあげる」
嬉しそうに小走りで居間に向かう椿。
その様子に、若いなぁと感じ、その妻の若さに喜びを感じていると、居間の方から、何やら素っ頓狂な声が聞こえてきた。
なんだ?なんだ?と思いながら、画家は下駄も脱がずに居間に走る。
すると、手の平に乗るくらいの小さい紅色の箱を持った椿がそれを見つめ佇んでいた。
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