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一人の画家が家の縁側に座って、足を組み、腕を組んで、目を細め、訝し気に庭を眺めている。
この画家は描く題材を探していた。
何を描こうか?
画家には拘りがあった。
絵は魂である。
自らの魂を筆に一身に込めて描く。
然し、それだけでは上手くは描けない。
上手く描くには、描く被写体の理解が必要だ。
画家は、花になり、木になり、草となった。時には東京の空を貫く様にそびえ立つ赤い電波塔になり、時にはフランスのバロック建築の傑作、華やかで絢爛豪華なブルボン家の象徴とも言えるその宮殿にもなった。
被写体を理解し、一体となりそれを描く。
然ればキャンバスには魂が宿る。
その、理解の仕方は人それぞれだ。そこに、写実があり、抽象を感じ、色彩が宿った。そして、画家の魂が混ざり合い唯一無二の芸術が生まれる。
画家は魂を描く画家である。
然し、気が乗らねば、そこまで出来るはずも無く、描きたくもない物を描けば気の抜けた絵が出来上がる。
題材選びに画家は神経を尖らせる。
庭には、千両がつぶらで赤い実を結び、繊細な白い水仙が俯いて、福寿草が逞しく黄色に輝いている。
松が雪化粧している様はなんとも風情である。冬の庭・・・しかし、どうにも気がのらない。毎年変わらないこの情景も良いが、何か奇抜な新しい風が欲しい。
そう題材選びに煩悶していると、後方から画家を呼ぶ声がした。
その声に画家が振り向くと、妻の椿がキョトンとして不思議そうに画家を眺めている。
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