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「どうしたんだい?椿、不思議そうに私を見て」
「貴方、画家でしょう?何時も思うんですが、そうやって、縁側に座ってぼーっと庭を眺めてるだけで絵が描けるんですか?」
「あぁ、これで描ける。私の絵の半分はこうやってぼーっとする事で決まるんだ」
「まぁ!画家って随分と呑気なのね」
「そう言ってくれるな。これでも、私は真剣なんだぞ」
「ふ~ん、真剣でもぼーっとしてるように見えるなんて、画家は間抜けだわ」
「君は皮肉家か!?呑気で間抜けじゃあ、ただの馬鹿じゃないか」
「アハハッ、御免なさい。そういうつもりはなかったのよ、ねぇ、今度は何を描こうとしているの?」
「それが決まらなくてね・・・今は二月だから、この二月に纏わるものを何か描こうとは思っているんだが・・・」
「あら!じゃあ、良いものがあるわ、ほらあれ!」
椿が家の中を指差す。画家は椿の指差す方を見るのに、少し体を捻った。
畳の部屋の角の辺りを指しているが、何も無い様に見える。畳の縁しか見えない。
「何も無いぞ」
「もっと良く見て御覧なさい」
画家は前屈みになり、目を凝らす。すると緑色をした縁の上にベージュがかった何やら丸い物があるのが解った。
「あれは・・・豆か」
「よく出来ました!そう、あれは豆。節分で投げたのがまだ残っていたのね。二月でしょう」
「あぁ、二月だ。けれど、あの豆一つで二月が連想出来るかな?」
「出来るわよ」
「ほんとか?今はまだ良いが、例えば八月の真夏日に見ても、豆で二月を連想するか?」
「えぇ!するわ」
「嘘をつきなさい。屹度、その絵が豆ということにも気づかないかもしれないぞ」
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