甘い雪解け

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画家を言い負かしたのが嬉しかったのか、椿は勝ち誇った様子で顎を少し上げ、目を細め、欝すらと笑みを浮かべている。 画家はその様子を見て、どうして、こうもコロコロと表情が変わるものかと不思議に思った。いっそのこと、椿を描いて仕舞おうかとも考えたが、女心は秋の空と言われる。二月では無いだろうと思いやめた。 いや、あの優雅で美しく、見ていて恍惚としてしまう様な、椿の華はそろそろ咲き始める頃なのだが、この妙に強気で高慢な彼女と名前は同じでも、全くの別物である。何とも、ややこしい彼女の性格だなと画家は思う。 また、画家の描こうと考えていた、二月の持つ、長い冬が終わり、これから春が来るという暖かで繊細なその気配、から彼女は掛け離れている。描くならもっと慎ましやかな、上品な女性じゃなければいけないと思うと、画家は苦笑した。彼女は上品ではあるが、慎ましくはない。自分を前へ前へ押し出す随分と奔放な性格である。 けれど、その妙に強気で高慢な彼女が自分の妻なのだから不思議である。 そして、自分の方から彼女に言い寄ったのだから滑稽である。等と考えると、今度は笑いが込み上げきて苦笑が笑みになる。 そんな画家の妻がまた、画家に話を持ち掛ける。
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