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「じゃあ、これが良いんじゃないかしら?」
不敵な笑みでそう言うと、椿は左手をスッと顔の前に出し、手の甲を画家に向けた。
薬指には、深い臙脂の柘榴石が禍しく輝き、その存在をこれぞとばかりに主張している。
「確かに二月だけど・・・それを描いてしまうとただの惚気じゃないか?」
「そうね~、でも解ってる?」
はぁ、と溜息つき軽く頭を抱える画家。
「あぁ、解ってるよ、月末は君の誕生日だ」
「この深紅の柘榴石も良いけど、今年は何だか永遠の輝きが欲しいわ」
「ハハッ、じゃあ、私が描いてあげようか、その輝きを、絵はいつまでも残る。それこそ永遠にだ」
椿がまたすぐにふて腐れて仏頂面をする。その様子に画家は慌てて撤回をした。
「冗談・・・冗談だよ」
「楽しみにしているわ」
「ハハハ、じゃあ、私は少し外を散歩してこようかな」
「はい、気をつけていってらっしゃい」
「あぁ」
「それと、楽しみにしていて下さいね」
おや?何だろうと画家は思うが、夕飯が豪勢なのだろうか・・・と考え、取り敢えず、あぁ、とだけ返事を返した。
椿はニコニコとして佇み、手を振っている。やはり、何か様子がおかしい。まぁ、帰ってきたときの楽しみにしておこう。画家はそう思いながら家を後にした。
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