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近場の商店街まで来ると、画家は違和感を感じた。妙に街が紅く彩られている。その紅い装飾は、何処か大人し気で慎ましく、気品に溢れていた。随分とお洒落である。
そして、キャッキャと若い女性達が楽しげに会話をしているのが目に映る。
あの、活気だけは溢れている商店街には上品すぎて似つかわしく無いな・・・と思いつつも、一体何だろうかと店まで近づくと「バレンタイン」の文字が目に入った。
「あぁ!世間での二月はこれか!」
と思わず感嘆の声をあげる画家。
この情景を・・・とも考えるが、些か俗過ぎるな・・・と思い、これもやめる。
我が儘
と頭を過ぎるが、拘り!がそれを打ち消した。すると、不意にあの、家を出る間際の椿の様子が浮かんでくる。満面の笑みで手を振っている。
その白く華奢な指には紅い柘榴石が鈍く輝いている。
「まさか・・・な」
と、おもむろに呟く。三十路、その歳を考えれば、それは無いだろ・・・と思うが・・・さて。
しかし、こうも拘っていたら、二月も終わって仕舞うのではないかと画家は思うが、どうにも描く気の起きる題材が見当たらない。
場所を移した。
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