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窓から射し込む夕日。
日当たりのいい南側に備え付けられた大きな窓からは、血を彷彿とさせる陽光が部屋を真っ赤に染め上げている。降り注がれる赤は私の手首の色にひどく似ていた。
痛々しい、傷痕。
「……先生」
私は跪き、祈るように夕日を浴びた。まるで神様に乞うように。
貴方――先生のことを考えると、どくどくと血流が体内を巡り回っているのが分かった。
甘ったるいミルクティの香りが部屋の中に充満していた。寂れたアパートの二階。1LDKの狭い空間には難しげな学校の書類やら洗濯しているのか判断しかねる衣類やらが散乱していて、自ら作らないと足の踏み場すらない。
――ほら。私に任せておかないからこうなるんだ。あの女に先生は相応しくなかったんだ。
普段の几帳面で、女子生徒から人気の先生からは到底考えられない光景だった。他の女子生徒たちが見たら、彼女たちはだらしがないとでも思うだろうか。
でも、私は何も戸惑わない。
何一つとして幻滅しない。
だって、知っているもの。
先生の、貴方の全部を。
学校では完璧な先生が実はズボラなことも、先生の誕生日も、好きな食べ物も、お気に入りの音楽だって何でも知っている。誰にも負けない自信すらある。
私が高校生であっても、例え世間も知らない子どもだと蔑まれても、先生の愛し方は識っている。
盲愛だと呼ばれても、乳臭いと言われても、異常だと罵倒されても、先生と生徒の関係で終わってしまうことが許せなかった。
愛している。
私は、ひとりの女として、先生のことを、愛している。
「愛してるよ、先生」
でも先生は私を愛してくれなかった。私を選んでくれなかった。
私は、あの女に、負けた。
先ほど注いだミルクティ。カップに触れるだけで分かる。熱々だったはずミルクティはもう冷めていた。まるで私たちの関係みたいで、なぜだか妙に笑えた。
ミルクティは先生のお気に入りの飲み物だ。よくこの部屋で、ふたりで笑いながら飲んだ。
先生から「今日は職員会議があるから遅くなる」と聞かされていた。部屋に入れる許可を私に与えたということは、あの女は今日は来ないのだろう。
好都合だ。
今日、先生への愛が完成する。あの人の心を私だけで埋め尽くして、私を全てを焦げ付かせる。
先生が私のことを、ずっとずっと考え続けてくれるんだ。
ああ、なんて素敵なんだろう。
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