208人が本棚に入れています
本棚に追加
「祈りたい」
黒の男は、ただその一言だけ、呟いた。どうぞ、と神父が言った。
黒の男が、張り付けにされた男の彫像の前に跪き、胸先で十字を切る。手馴れていた。手馴れているということは、つまりそういうことなのだろう。
「どこか、遠い地からいらっしゃったのですか?」
「何故、そう思う?」
「この地では、あまり見かけない顔だったものですから」
「この地には、神父に顔を覚えられるほど罪を重ねた人間ばかりが、住んでいるのか?」
まさか。神父が笑う。黒の男は、一度も神父を見なかった。
最初のコメントを投稿しよう!