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『おはよう!』
教室の中は、俺の気分など全くお構いなしに来たるべき日に備えお祭り騒ぎだ。
もはやため息すら出ない。
俺はドカッと机にカバンを放り投げ、乱暴に椅子に腰掛けた。
『おい純、やけに機嫌悪いじゃねえか。どうしたよ?』
クラスメイトの拓海が心配そうに俺を見ている。
拓海は高校からの友人で、
去年俺が中学で味わった悲劇を知らない。
『何でもねーよ』
拓海の心配をよそに、
俺は視線を窓の外に移していた。
思い出される中学最後のバレンタインに起きた悲劇。
高校で離ればなれになる憧れの子からもらったチョコレート。
野次馬からの冷やかしじみた祝福…照れ笑いの俺。
しかし、彼女から想いも寄らぬ一言が俺の胸に突き刺さった。
『あの…それ、純くんから亮太くんに渡しておいてほしいの。ほら純くん仲いいでしょ?お願い!』
俺はそのときどんな顔をしていたのか覚えていない。
とにかく、律儀にチョコレートを亮太に渡し、ヘラヘラと作り笑いをしながら平静を装ったことは記憶している。
あの時現場を目撃していた友人たちの哀れみの目が、俺にこの憂鬱をもたらしたと言ってもいいだろう。
『起立!』
学級委員の号令で我に帰り、俺はブンブンと顔をふりながら忌まわしき過去を振り払った。
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