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まさか彼とぶつかるなんて…。
私は真っ赤になった顔を見せたくない一心でその場を駆け去り、
気が付くと自分の教室の前を通り過ぎていた。
まだ胸の鼓動がおさまらない。
一つ二つ深呼吸して、ようやく冷静さを取り戻した。
隣のクラスの、岡崎純くん。
私は彼を知っている。
でも、あの時の彼の表情から察すると、きっと私は知られてはいないのだとわかった。当然だ、私はちっとも目立つタイプじゃない。
『いけない、約束に遅れる!』
今日は友達に付き合って、チョコレートを買いに行く約束をしていたのだった。
教室に戻り、教科書を大急ぎでカバンにねじ込んだ。クラスメイトに別れを告げ、校舎口へと走る。
『遅いよ、亜美』
友達に両手を合わせて謝り、目的の店へと向かった。
友達は小さい色とりどりにラッピングされたチョコレートをいくつか選び、それとプレゼント用の袋を念入りに選んでいる。
当の私はというと…特に買う予定はない。私にとって明日の2月14日はバレンタインという気にどうしてもなれないのだ。
『亜美は買わないの?』
友達の言葉に小さくうなずき、私たちは店を出た。
友達とは駅で別れ、私はバス停に向かって歩きながらポケットを触ると…
無い。
胸ポケットに入れてあったはずの定期入れが無い。
どこかで落としたんだ…がっくりとうなだれた私は結局財布からバス賃を出し、家路についた。
ついてないな…。
凹んだ気持ちのまま、玄関の鍵を開けると家は留守のようだった。
二階へ上がり、カバンを机に乗せ、ベッドに倒れこんだ。
バレンタインデー…か。
私の脳裏に今までの2月14日がふとよぎった。
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