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冬に雪が降るのは、何も不思議なことじゃない。でも、不思議なんだ。
本州の南、更に太平洋側に位置する僕の町には、気候に関わらず毎年の冬、適当な時期に、適当な期間だけ必ず雪が降る。時期が決まっている訳じゃないので、
「明日は晴れるでしょう」
と、お天気お姉さんが言っていても、翌朝、部屋のカーテンを開けると一面の雪だったりする。
小さな頃は雪が降る事も、それを暖かいと感じる事も普通の事だと思っていた。
――この町に雪が降るようになったのはね。
いつだったか、窓の外に降る雪を眺めながら婆ちゃんに話してもらった事がある。
今より大分昔、この町が村と呼ばれていた頃、一人の行商人がやってきた。その行商人は、村人達が見た事も無い様な品物を見せては、それにまつわる面白い話をして行った。その最後に、山に蒔けば雪を降らせる”雪の種”と言う、雨雲の様な色をした小さな種についての話をした。
「雪を一度見てみたい」
と、その話に興味を持った一人の村人が種を買った。その村人は、その日の内に種を握り締めて山を登って行ったが、何時になっても戻ってこない。心配して村人総出で探したけれどその村人は見つからず、
「不思議な事じゃ」
「神隠しにあったんじゃろうか」
と噂した。
その年の冬から毎年雪が降るようになり、村人達は、戻ってこない村人が山に雪の種を蒔いたからだろう、と言いあった。
その事が村の伝説となって今でも語り継がれていて、町の歴史資料にも記され、種を蒔いたとされている、町外れの高槻山の頂上にも石碑が建てられている。
その話を聞いてから、この町に雪が降るのは何か特別な事なんだと思うようになった。
――じゃあ雪が暖かく感じることについては?
物心ついたあるとき、庭に積もった雪で遊びながら「雪って暖かいね」と、それを見ていた両親に向かって言った事がある。その時二人とも眉を顰めて、
「何を言ってるの? 冷たいでしょ」
と言った。そして、母さんが雪を手に取り「ホラ」と僕の頬へ押し当てる。
「冷たいでしょ?」
そう言って笑いかけるけれど、
(暖かいじゃん。お母さんはおかしいんじゃないの?)
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