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カイはギターを受け取ると、アオイのところに戻ってきた。
「はい。」
ギターをアオイに渡す。
カイの影から、先程の青年がこちらを不思議そうに見ているのが見えた。
貸してくれたお礼の意味を込めて、アオイは、彼に向かって、深く一度礼をした。
アオイは、道のど真ん中では交通の邪魔になるのでと道の隅に移動する。
位置につくと、ギターの弦を軽く指で弾いた。
そして、カズマを見た。
「………ッ。」
カズマは、その力強い目をよく知っている。
……歌うぞ。
アオイが歌う直前に出す癖。
サインとも言えるだろうか。
その数秒後、人々を震え立たせる歌声が響くのだ。
♪~…ッ♪♪♪!!!!
ふと、カズマは思い出した。
アオイは、エレキギターを好かなかった。
その変わり、自分の歌を引き立てるアコースティックは、エレキとも言えるようなメロディーを出すのだ。
♪♪♪~ッ♪♪!!
「………ッ!!!!!」
迫力のあるギターの音。
アオイが口を開いた瞬間、カズマは息を飲み込んだ。
アオイの歌う姿に圧倒される。
歌声が聞こえるような感覚がした。
しかし、現実には、アオイの声など口から出てはいない。
まるで、幻聴のよう。
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