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飛び込んでくる、はずだったのだ。
目を瞑り、数秒後の未来に思いを馳せて両手を広げる太一だが、一向にやってこない未来に疑問を感じ、ゆっくりと目を開ける。
そこで目にしたもの。
恵を小脇に抱えた茶髪のゴスロリお姉さんが仁王立ちしていた。
「……」
「……」
両手を広げたまま硬直する太一。それを冷ややかに見つめるゴスロリお姉さん。
もちろんのことだが太一にはワケが分からない。十六年生きてきた中でも最高に幸せな時間を過ごしていたはずなのに、どうして初対面のお姉さんと見つめ合っているのだろう。そして、どうしてお姉さんはそんなに悲しそうな顔をしているのだろう。
「色々聞きたいことがあるだろうが、言うより見てもらったほうが早い。彼女を起こしてくれないか」
言うなり、お姉さんは恵を校舎にもたれるように置くと、少し離れて木に体重を預ける。
未だに動けずにいる太一がそれでも視線をお姉さんに向けると、クイ、と顎だけで指示をする。
早く起こせ、ということなのだろう。
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